私たちの研究室では遺伝子発現における翻訳のしくみやncRNAの機能などについて研究しています

研究内容

 細胞内の構造体であるリボソームは数種類のRNAと数十種類のタンパク質からなる分子量250万の超分子複合体であり、そこでは、数十種類のRNAと数十種類のタンパク質が出入りするという複雑な過程を経ることで、「遺伝情報に基づいたタンパク質の合成」が行われていく。本研究では、このRNAマシーン上で行われる数々の未知反応を明らかにし、それらの反応を分子・原子のレベルで明らかにしていくことを通して、リボソームの分子機能・分子機構ならびに分子構築の原理を明らかにしていく。

 

リボソーム小サブユニットで活性化される新規GTPase

 我々が大腸菌の新しいRNA結合タンパク質として同定したタンパク質RsgA(別名YjeQ)は、OB fold、GTPaseモチーフ、金属結合様モチーフをもち、バクテリアに広く存在する。実際、本タンパク質には極めて弱いGTP加水分解活性が認められた。このGTP加水分解活性は、リボソームの添加により著しく活性化された。面白いことに、このGTP加水分解活性は翻訳の開始、伸長、終結で働く一連のGTPaseの活性化が行われる既知のGTPaseセンターが存在するリボソーム大サブユニットではなく、小サブユニットで活性化された(Himeno et al., 2004)。小サブユニットで活性化されるGTPaseは本タンパク質が世界で初めてのものである。このGTPaseの活性化は小サブユニット上のAサイト(decoding領域)に特異的に結合する抗生物質の添加によって阻害された。本GTPaseはGTPあるいはGDP存在下においては、リボソームと安定な複合体を形成しなかったが、非加水分解型のGTPアナログであるGDPNPを添加するとリボソーム小サブユニットと安定な複合体を形成していた。同時に、リボソームをサブユニットに解離させた。最近、RsgAの結合が、リボソーム小サブユニット上のtRNA結合部位およびmRNA結合部位に大きく構造変化を与えることを明らかにした(Kimura et al., 2008)。この結果は、翻訳の新しいメカニズムの存在を示唆するものである。現在、リボソーム小サブユニット上でRsgAと共同して働く因子を明らかにしており、翻訳の新しいメカニズムの解明ならびに生体超分子複合体リボソームの分子構築のメカニズムの解明に対して糸口を与えるものと期待される。

 

RsgAは生合成の途中の過程にあるリボソームからRbfAを追い出す

 RsgAを欠損させると、細胞は極めて生育速度が遅いという表現型を示し、細胞中では70Sリボソームのうちの大多数が翻訳休止状態と考えられる大小二つのサブユニットに解離する。リボソーム関連因子という点から、タンパク質生合成あるいは生体超分子リボソームの生合成との関わりが想定されてはいるものの、本GTPaseがリボソーム上でどのような機能を果たしているのか、そしてそれが細胞にとってどのような意味があるのかといった問題は未解決のままであった。

 我々は最近、リボソームの生合成(成熟)の過程において「RsgAが、リボソーム小サブユニット前駆体に結合したRbfAというタンパク質を成熟過程の最終段階においてリボソーム小サブユニットから解離させる」働きがあることを明らかにした(Goto et al., 2011)。

 

リボソームの生合成過程の全容解明

 リボソームの生合成は、3種類のrRNAの転写、rRNA前駆体のプロセッシング、50種類以上のリボソームタンパク質の集合、個々のRNAおよびタンパク質の修飾およびフォールディング、複合体の構造変化が複雑に絡み合うことで行われる、きわめて巧妙なプロセスであると考えられている。真正細菌では、数十種類の因子がリボソームの成熟に関わると報告されているが、それらは遺伝子を欠損させることでリボソームの前駆体が蓄積するといったレベルの報告がほとんどであり、プロセッシング酵素や修飾酵素以外で具体的な働きが明らかにされたものは一つもなかった。現在、我々が明らかにしたRsgAとRbfAの関係を基礎として、数十種類の成熟因子が関わる超分子複合体リボソームの成熟の過程の全容解明を目指している。