私たちの研究室では遺伝子発現における翻訳のしくみやncRNAの機能などについて研究しています

研究内容

リボソーム生合成因子の欠損は高浸透圧に対して耐性を示す

 我々は「RsgAノックアウト細胞(大腸菌)が高浸透圧に対して耐性を示す」という現象を発見した(Hase et al., 2009)。通常の生育条件下では、RsgAノックアウト細胞は野生型細胞に比べて極めて生育が悪い。ところが、野生型細胞が全く生育しなくなるほど高浸透圧(高塩濃度)下においても、ノックアウト細胞は増殖を続けた。RsgAの欠失が細胞の生育限界を打ち破ったとも解釈される。

 浸透圧耐性(塩耐性)は、RsgAの欠損のみならず他のリボソーム生合成因子の欠損によってももたらされることを明らかにした。さらに、いくつかの翻訳阻害剤によっても浸透圧耐性(塩耐性)は引き起こされた。なお、DNA複製阻害剤や転写阻害剤には同様の効果は認められなかった(Hase et al., 2013)。

 これらの発見は、「リボソームの分子機能」と「ストレス応答」という生理機能とがどのように結びつくのか、という新たな問題を提起するものとなった。

 

 浸透圧の上昇は、まず細胞内膜にあるセンサータンパク質EnvZに感知され、リン酸転移という形で転写制御因子OmpRに伝えられる。これと平行して、細胞内膜に結合している転写開始因子(シグマE)が細胞質に放出されることで、浸透圧ストレスに応答する転写が促進される。その結果、細胞外膜タンパク質の強化およびポーリンの減少がおこる。一方、浸透圧の上昇に伴うカリウムイオンの急激な取り込み、それに続く通常のシグマ因子の転写の抑制、定常期の転写開始因子(シグマS)の上昇を経て、細胞内オスモライト濃度の上昇をもたらす。このような既知の浸透圧ストレス応答システムの中で、転写制御やnon-coding RNAを介した特定のmRNAの翻訳制御が関与することは知られていたが、薬剤のターゲットとなっているアミノアシルtRNA合成酵素やリボソームなどの翻訳装置が原因となる「非特異的な」翻訳レベルでの制御が関わるという報告はなかった。本研究は、浸透圧耐性の新しいメカニズムの存在を示唆するものであり、また「非特異的な翻訳抑制」という新しい視点からストレス応答システムの解明にチャレンジするものである。